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池田清彦『驚きのリアル進化論』 [自然科学]

池田清彦先生の最新刊で、進化理論の流れをわかりやすく追った入門書。私は池田先生の本は数冊読んでいて、池田先生のファンですので、今回のご著書も楽しく読ませていただきました。

生物の自然発生や進化に関して、ギリシャ時代の捉え方から時間を追って、科学者の間でどのような論争があったのかをエピソードを交えて解説されています。高校生物や大学教養課程の副読本としても良いでしょう。興味があれば中学生でも理解できるでしょう。

池田先生が提唱された、構造主義科学に関しても少し触れられていますけれど、書籍への紹介にとどまっているのが残念ですね。もう少し突っ込んだ入門編にされてもよかったのではと思いました。
驚きの「リアル進化論」 (扶桑社新書)

驚きの「リアル進化論」 (扶桑社新書)

  • 作者: 池田 清彦
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2023/09/01
  • メディア: 新書



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羽田圭介『滅私』 [文学小説]

ミニマリストを題材にした小説だったので興味を持ち購入。

ミニマリストにもサブタイプがあり、洗濯機を持つ/持たない、クルマを持つ/持たないと細分化されることを知った。なるべくモノを減らす点では一緒なので、どのタイプでも生活空間が似てきてしまうのはよく考えれば当たり前だな。

モノが無い空間は刑務所みたいだ、モノが無い空間は心が休まらないという話の展開は少し意外で、元々は多数のモノに心をかき乱されるからモノを減らすのではなかったのか?といった疑問がよぎる。

ミニマリストの問題点がたくさん挙げられており、憧れている人は自分の覚悟を試すつもりで読むのもいいかもしれません。


滅私

滅私

  • 作者: 羽田圭介
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2021/11/30
  • メディア: Kindle版



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構造主義をめぐる生物学論争 [自然科学]

生物学者の池田清彦先生が書かれた構造主義生物学の本を読み、構造生物学の本を何冊か読んでいます。この本は9名の対談という形になっていて、池田先生が提唱した構造主義生物学の考え方に対する検証も含みます。発刊が1989年と今から30年以上も前の話ですが、語られている内容は古いとは感じませんでした。DNAに書かれた情報と生命現象の発現の間の関係は、ブラックボックスのところが今でも多くて、DNAの塩基配列が読めた、イコール、生命が理解できたとはならないんですね。生物が行っている営みは、その生化学的反応過程は全て物理化学的な規則に従っていますが、進化、遺伝、免疫、生殖、再生といった生物の営みが自動的に出てくるわけではない、そこにはDNAだけでは語れないようなものがあって、それを「構造」と呼んで色々議論していると読み取りました。

池田先生の著作を何冊か読んでから挑戦しましたが、私には結構難解な本で、おそらく半分もきちんと理解できていないのではと思います。時間が経ったら再読してもう一度考えてみるべき内容かな、といったところですね。


構造主義をめぐる生物学論争

構造主義をめぐる生物学論争

  • 出版社/メーカー: 吉岡書店
  • 発売日: 2023/08/15
  • メディア: 単行本



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橘玲『シンプルで合理的な人生設計』、ダイヤモンド社(2023) [社会科学]

橘玲氏のハウツーで、成功法則を人的資本、経済資本、社会資本の3軸から解説したものです。題名に「合理的な」と入っているように、経済や統計確率のベースで人生や幸せを分析していくといったスタイルですね。引用文献も数多く紹介されており(海外書籍の日本語訳が多い印象です)、更に詳しく知りたい人に対しても親切にできています。

私は、橘氏の本は好きなので今までに何冊も読んでおり、その延長線上で今回も楽しく読みました。今回特に面白かったのが第7章―人的資本の成功法則で、「バイオリンの天才児はなぜデリヘルドライバーになったのか」の部分です。この事例は、あることで成功する(=世の中に認められ、その認められたことで安定した生計を立てることができる)には、どの程度の競争に勝ち抜かなければならないかについて大変貴重な気づきを与えてくれており、その程度は分野によって桁違いに開きがある、ことがよくわかります。特に芸術系の競争は熾烈(イスの数に比して参加者がものすごく多く、競争率が高い)で、かつ取得した技術は他への転用が効きにくいことがよくわかります。また世の中に認められるにはどの程度の努力が必要かという、「努力―成果曲線」と言うべきもの(図33)から、芸術系では日の目を見るために必要な努力量が多い(=市場のレベルが高いとも言う)がわかります。

こういうのをわかった上で、じゃあ自分はどうするの?ということについて或る程度の示唆は与えてくれていますけど、自分自身の置かれている状況を考えて、「自分でよく考える、そしてやってみる」が最適解でしょうかね。


シンプルで合理的な人生設計

シンプルで合理的な人生設計

  • 作者: 橘 玲
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2023/03/08
  • メディア: Kindle版



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小林美希『年収443万円』ー安すぎる国の絶望的な生活、講談社現代新書(2022)

はじめに
第1部 平均年収でもつらいよ
第2部 平均年収以下はもっとつらいよ
第3部 この30年、日本社会に何が起きたのか?
おわりに

収入が無くて生活が苦しい話はめずらしくありませんが、それでは平均年収とされる金額を稼げている人の生活はそれなりに幸せなのだろうか。本書は現在の日本において平均程度の年収(世帯収入)があっても、生活が豊かどころか貧困に近いのではとの問題を提起しています。

私は、2チャンネル創始者のひろゆき氏がYouTubeなどで、生活保護を取ることを割と気軽に薦めるような印象を持っていて、色々な条件はあるにせよ使える金額の大きさからそれは厳しいのではないだろうかと思っていたが、まさにそれが明確に示されている。

就職氷河期に非正規雇用が増え、その人たちの大部分ずっと正規雇用へ転換されずに本日に至り、経済的な安定を失っている。2020年に発生したコロナ禍による臨時休校や様々な自粛は非正規雇用の人たちの家計を直撃したことが、詳細なルポルタージュにより明らかにされます。

本書に登場する人たちは、お金のかかる趣味や生活スタイルを持っているわけではなく、それどころか懸命に倹約に努めています。子供が私立の学校に行く、今のままでは生活が回らないからもっと介護サービスを受けたいというのは、贅沢とは言わないでしょう。本書を読んで、自分の身を引き締めて節約、倹約して貯金しなきゃと思うかもしれませんが、筆者はこう指摘します。それでは景気がよくなるわけがない、と。

ひろゆき氏のトークは人気があって確かに面白いのですが、本書を読んだ後で改めて彼のトークを聞くと、また違った景色が見えてくるように思いました。


年収443万円 安すぎる国の絶望的な生活 (講談社現代新書)

年収443万円 安すぎる国の絶望的な生活 (講談社現代新書)

  • 作者: 小林美希
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2022/11/16
  • メディア: Kindle版



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カズオ・イシグロ著『わたしを離さないで』、早川書房(2008) [文学小説]

ノーベル文学賞受賞作家、カズオ・イシグロ氏の作品です。

クローン人間を題材にしたものだというので、興味がありましたので読んでみました。つい最近再読したのですけれど、物語全体に流れる抑圧した独特の雰囲気がなんとも言えず、心に引っかかりを残す小説だなあというのが感想です。ちなみに私はノーベル文学賞を受賞するまでイシグロ氏のことは知りませんでしたし、もちろん作品を読んだことはありませんでした。

この話は、いずれは臓器移植に供されるため、それだけのために育てられる少年少女の物語で、物語の舞台はその少年少女達が通う学校と、卒業後10年の生活から成っています。語り手はキャシー・Hという31歳の女性(学校卒業後11年目)が担います。科学的な記載はほとんど無くて、読み手は臓器移植のために育てられるクローン人間の存在が当たり前として許容される社会の中へいきなり放り込まれることになります。私たちが住んでいる社会とはそもそも設定が違うので、近未来小説というのは相応しくなくて、敢えて言うなら異世界小説でしょうか。

この少年少女たちには、もちろん心も感情もあります。普通の人間と同じという設定で描かれています。臓器移植に供されることが予め運命として教え込まれており、淡々とそれに従って使命を終えることが義務づけられており、それに対する反抗とか反乱というのはありません。後半部分では少年少女たちの育成(教育)方針について、一部の大人たちの闘いが描かれますが、結局上手く行きません。

私は、この物語には強い哀しみが内包されていると思いました。少年少女たちの視点でも、彼等の運命を知っている大人の視点でも。私が前者の方の哀しみにより強く反応してしまうのは、この小説の主人公たちであるクローン人間たちの将来が定められてしまってるという、その閉塞感に依るものかもしれません。


わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2008/08/22
  • メディア: Kindle版



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新宿御苑の元職員、外国人客から入園料を未収 [日々のこと]

2018年10月25日、新宿御苑の元職員が、外国人客から入園料を徴収せず未徴収額が約2,500万円に達しているとのニュースが報道されました。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20181025/k10011684991000.html

外国人客の入場をスルーしていたというのいうのではなくて、入園券をただで渡し、コンピューターの記録も改竄していたらしいです。

でもこれ、外国語(英語)が話せないから、対応するのが怖いって、仕事になってないですよね(^^;
この方の頭には、英語で問題無く意思疎通できるか、あるいは全くできないかの2パターンしか無かったのでしょうか。入園券を売るだけならばあらかじめ手順を決めて機械的にできるし、案内だったら英語で書かれたパンフレットを黙って渡すだけだって最低限それでよいはず。

と考えると、日本人の英語力うんぬんや東京オリンピックが来るのにこんなんじゃ不安といった大きな話では全くなくて、単に職務怠慢だった、というだけかと。2,500万円の被害って、入園料200円だとすると12万5,000人分じゃないか!


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山中伸弥、羽生善治、『人間の未来 AIの未来』、講談社(2018) [エッセイ・随筆]

将棋の名人、羽生氏とiPS細胞でノーベル賞を受賞した山中先生の対談録です。

私は、過去に山中先生の講演を聞いた事があります。日本整形外科学会という学会の特別講演だったのですが、何故整形外科の学会で講演会?と不思議に思いましたが、山中先生は初め整形外科医を目指していたんです。ここら辺のいきさつはこの本でも触れられています。講演で見聞きした山中先生のお人柄がそのまま本に現れていて、大変読みやすくわかりやすく書かれています。

NHKスペシャル?で電王戦(プロ棋士とAIとの対戦)が取り上げられていて、その番組もなかなか面白かったので、その流れで読みました。私が知りたかったのは、プロ棋士は対戦でどんなことを考えているのか、それはAIとどう違うのかということでしたが、非常にクリアな回答が示されていました。

人間の指す手は過去からの流れで構築された、美的センスに沿っているということ、一方AIはその都度最適な手を計算で出すことで両者は根本的に異なり、それが人間棋士がAIに対する違和感につながっている、というのは非常に面白いと思いました。

さらに、人間が考える手というのは美的センスに沿っているが故に制約があり、美しくないと捨てている手の中に実は新しい有用な手があるのかもしれないと、羽生さんは考察されています。すごい、さすが羽生さん! すると、AIが提示してくる手を研究することは、将棋の世界を更に深く理解することにつながるだろう、と。

実はこの問題、将棋に留まらずAIが応用される分野全てに言えるんですよね。これから先もAIの進歩は続くでしょうが、現在実現化している技術範囲まででも新しい世界が開けるのではと、興奮した一冊でした。Kindle版も出ています。


人間の未来 AIの未来

人間の未来 AIの未来

  • 作者: 山中 伸弥
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2018/02/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



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室生犀星「蒼白き巣窟」 [文学小説]

先日購入した、室生犀星の作品集(Kindle版)に「蒼白き巣窟」という短編小説があります。作者が遊郭の中に入り込み、女達の生活を描き出しつつ客の1人として関わる様を描いた作品です。巣窟の規模は四千何百個とあり、それなりに大きな規模かと思います。

「私」と女郎「おすゑ」のやりとりが一つプロットとしてまとまっていますが、これを見ると「遊ぶ」ということも人間関係の一つであることがよくわかります。

さらに、病気の祖母を抱えた女が「私」を自宅に招き入れる部分。これはもう、生活の場と商売の場が完全に重なってしまっていて、正直読んでいてかなりの違和感を覚えました。女の身の上と商売は関係ないだろうという気持ちが先に立ったのです。でも読み進めていくうちに、このような実態は存在し得たであろうし、女が置かれている境遇を考えるとこの形しかあり得ないだろうと納得せざるを得ませんでした。これが作品中の二つ目のプロットになっています。「私」はこの女に銀貨を恵むのですが、立場の上下関係から来るいやらしさは全く感じられません。まあこれは金持ちの旦那が気まぐれお金を恵んでやるという流れにはなっておらず、犀星も丁寧な描写を心がけているせいかと思いますが。貧困から来るやるせなさを感じるかはおそらく人それぞれで、私は、文体は結構ドライな感じでやるせなさはあまり感じませんでしたが、読む人によって意見は分かれるかもしれないなと思いました。

ここに出てくる人の生活レベルは底辺層です。そこから来る場末感を作品中にぶちまけ、所々にきらりと光る登場人物同士のやりとりを丁寧に拾っていくという、犀星が得意とする手法ですね。
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室生犀星「或る少女の死まで」と「ザボンの実る木のもとに」 [文学小説]

以前に、ブログで村上春樹『ノルウェイの森』と「螢」の関係について論じたことがありました。「螢」は『ノルウェイの森』の一部となっている短編集で、『ノルウェイの森』は「螢」をほぼ完全な形で含んでおり、作品の出発点となったと考えています。

同様の構造を、室生犀星「或る少女の死まで」と「ザボンの実る木のもとに」にも見ることができます。「ザボンの実る木のもとに」は「或る少女の死まで」の一部と見なせる作品ですが、「或る少女の死まで」はそれほど長い作品ではないので、一部と言うの言い過ぎかもしれませんが。

ところで後者の底本は「室生犀星全集第一巻」新潮社、昭和三十九年とされており、「或る少女の死まで」よりは新しい作品のようです。とするとこれは作者が「或る少女の死まで」と書いた後で、そのコアとなる部分を再度取り出して結晶化したものと考えられるかもしれません。

※下記の電子本を読みました。

『室生犀星作品集・57作品⇒1冊』

『室生犀星作品集・57作品⇒1冊』

  • 出版社/メーカー: 室生犀星作品集・出版委員会
  • 発売日: 2016/12/21
  • メディア: Kindle版



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