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カズオ・イシグロ著『わたしを離さないで』、早川書房(2008) [文学小説]

ノーベル文学賞受賞作家、カズオ・イシグロ氏の作品です。

クローン人間を題材にしたものだというので、興味がありましたので読んでみました。つい最近再読したのですけれど、物語全体に流れる抑圧した独特の雰囲気がなんとも言えず、心に引っかかりを残す小説だなあというのが感想です。ちなみに私はノーベル文学賞を受賞するまでイシグロ氏のことは知りませんでしたし、もちろん作品を読んだことはありませんでした。

この話は、いずれは臓器移植に供されるため、それだけのために育てられる少年少女の物語で、物語の舞台はその少年少女達が通う学校と、卒業後10年の生活から成っています。語り手はキャシー・Hという31歳の女性(学校卒業後11年目)が担います。科学的な記載はほとんど無くて、読み手は臓器移植のために育てられるクローン人間の存在が当たり前として許容される社会の中へいきなり放り込まれることになります。私たちが住んでいる社会とはそもそも設定が違うので、近未来小説というのは相応しくなくて、敢えて言うなら異世界小説でしょうか。

この少年少女たちには、もちろん心も感情もあります。普通の人間と同じという設定で描かれています。臓器移植に供されることが予め運命として教え込まれており、淡々とそれに従って使命を終えることが義務づけられており、それに対する反抗とか反乱というのはありません。後半部分では少年少女たちの育成(教育)方針について、一部の大人たちの闘いが描かれますが、結局上手く行きません。

私は、この物語には強い哀しみが内包されていると思いました。少年少女たちの視点でも、彼等の運命を知っている大人の視点でも。私が前者の方の哀しみにより強く反応してしまうのは、この小説の主人公たちであるクローン人間たちの将来が定められてしまってるという、その閉塞感に依るものかもしれません。


わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2008/08/22
  • メディア: Kindle版



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