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室生犀星「蒼白き巣窟」 [文学小説]

先日購入した、室生犀星の作品集(Kindle版)に「蒼白き巣窟」という短編小説があります。作者が遊郭の中に入り込み、女達の生活を描き出しつつ客の1人として関わる様を描いた作品です。巣窟の規模は四千何百個とあり、それなりに大きな規模かと思います。

「私」と女郎「おすゑ」のやりとりが一つプロットとしてまとまっていますが、これを見ると「遊ぶ」ということも人間関係の一つであることがよくわかります。

さらに、病気の祖母を抱えた女が「私」を自宅に招き入れる部分。これはもう、生活の場と商売の場が完全に重なってしまっていて、正直読んでいてかなりの違和感を覚えました。女の身の上と商売は関係ないだろうという気持ちが先に立ったのです。でも読み進めていくうちに、このような実態は存在し得たであろうし、女が置かれている境遇を考えるとこの形しかあり得ないだろうと納得せざるを得ませんでした。これが作品中の二つ目のプロットになっています。「私」はこの女に銀貨を恵むのですが、立場の上下関係から来るいやらしさは全く感じられません。まあこれは金持ちの旦那が気まぐれお金を恵んでやるという流れにはなっておらず、犀星も丁寧な描写を心がけているせいかと思いますが。貧困から来るやるせなさを感じるかはおそらく人それぞれで、私は、文体は結構ドライな感じでやるせなさはあまり感じませんでしたが、読む人によって意見は分かれるかもしれないなと思いました。

ここに出てくる人の生活レベルは底辺層です。そこから来る場末感を作品中にぶちまけ、所々にきらりと光る登場人物同士のやりとりを丁寧に拾っていくという、犀星が得意とする手法ですね。
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