SSブログ
自然科学 ブログトップ
前の10件 | -

池田清彦『驚きのリアル進化論』 [自然科学]

池田清彦先生の最新刊で、進化理論の流れをわかりやすく追った入門書。私は池田先生の本は数冊読んでいて、池田先生のファンですので、今回のご著書も楽しく読ませていただきました。

生物の自然発生や進化に関して、ギリシャ時代の捉え方から時間を追って、科学者の間でどのような論争があったのかをエピソードを交えて解説されています。高校生物や大学教養課程の副読本としても良いでしょう。興味があれば中学生でも理解できるでしょう。

池田先生が提唱された、構造主義科学に関しても少し触れられていますけれど、書籍への紹介にとどまっているのが残念ですね。もう少し突っ込んだ入門編にされてもよかったのではと思いました。
驚きの「リアル進化論」 (扶桑社新書)

驚きの「リアル進化論」 (扶桑社新書)

  • 作者: 池田 清彦
  • 出版社/メーカー: 扶桑社
  • 発売日: 2023/09/01
  • メディア: 新書



nice!(2) 
共通テーマ:

構造主義をめぐる生物学論争 [自然科学]

生物学者の池田清彦先生が書かれた構造主義生物学の本を読み、構造生物学の本を何冊か読んでいます。この本は9名の対談という形になっていて、池田先生が提唱した構造主義生物学の考え方に対する検証も含みます。発刊が1989年と今から30年以上も前の話ですが、語られている内容は古いとは感じませんでした。DNAに書かれた情報と生命現象の発現の間の関係は、ブラックボックスのところが今でも多くて、DNAの塩基配列が読めた、イコール、生命が理解できたとはならないんですね。生物が行っている営みは、その生化学的反応過程は全て物理化学的な規則に従っていますが、進化、遺伝、免疫、生殖、再生といった生物の営みが自動的に出てくるわけではない、そこにはDNAだけでは語れないようなものがあって、それを「構造」と呼んで色々議論していると読み取りました。

池田先生の著作を何冊か読んでから挑戦しましたが、私には結構難解な本で、おそらく半分もきちんと理解できていないのではと思います。時間が経ったら再読してもう一度考えてみるべき内容かな、といったところですね。


構造主義をめぐる生物学論争

構造主義をめぐる生物学論争

  • 出版社/メーカー: 吉岡書店
  • 発売日: 2023/08/15
  • メディア: 単行本



nice!(2) 
共通テーマ:

麻酔の本 [自然科学]

今回は、麻酔の本を2冊ご紹介します。いずれも麻酔科医が書かれたものです。

1.廣田 弘毅、『麻酔をめぐるミステリー』、化学同人(2012)
2.外 須美夫、『麻酔はなぜ効くのか?』、春秋社(2013)

1は麻酔について勉強する人を対象に書かれた入門書で、対話形式になっています。麻酔についての薬理学的な説明が中心ですが、麻酔発見から今現在までの流れも入っていて、エントリー本としては良いものかと。

麻酔は意識を消失させる働きがありますが、見方を変えれば「意識」を化学反応のネットワークとして捉えることにつながります。吸入麻酔薬により海馬の機能を完全にシャットダウンして記憶の形成を阻害すると、その間だけ記憶が飛ぶことがわかっている。記憶と意識は密接に関係しているが、それでは脳内でどのような反応が起きれば意識が生じるのか(著者は、「脳内で、どこの領域のニューロンが何個くらい、どのようなシグナルを発したら意識が生じるのか」といった、より科学的に正確に記載しています)についてはまだ不明とのこと。仮説はあるようですが(アセンブリモデルというものが紹介されています)、それが検証されるのは未だ先でしょう。

2は、臨床現場にいる麻酔科医のメッセージという内容で、「痛みの哲学臨床ノオト」というサブタイトルが付いています。手術室における麻酔科医の役割や働きについて書かれたエッセイで、麻酔科医の仕事と役割と重要性について知るには良い本かと思います。麻酔非常にartificialな状態であり、麻酔科医がサポートすることで初めて安全かつ有効に機能する、そしてその上に手術や鎮静という治療方法が確立しているということがよくわかります。


麻酔をめぐるミステリー: 手術室の「魔法」を解き明かす (DOJIN選書)

麻酔をめぐるミステリー: 手術室の「魔法」を解き明かす (DOJIN選書)

  • 作者: 廣田 弘毅
  • 出版社/メーカー: 化学同人
  • 発売日: 2012/07/30
  • メディア: 単行本




麻酔はなぜ効くのか?: 〈痛みの哲学〉臨床ノオト

麻酔はなぜ効くのか?: 〈痛みの哲学〉臨床ノオト

  • 作者: 外 須美夫
  • 出版社/メーカー: 春秋社
  • 発売日: 2013/04/22
  • メディア: 単行本



nice!(1) 
共通テーマ:

佐藤文隆『科学者には世界がこう見える』、青土社(2014) [自然科学]

理論物理学者が書いたエッセイです。理論物理学は数学を道具として世界を見ていくので、少し前に載せた「数覚」をお持ちの方たちだろうと思われます。大昔になりますが、ロゲルギストK2氏という物理学者の集団が書いた、『物理の散歩道』というエッセイ集を面白く読んだ記憶があるので、この本もその延長線上にある感覚で読みました。

自分が期待したような、「数覚」を駆使した世界観が展開されていたわけではなかったので、そのような観点からは空振りに近かったのが正直な感想です。ですが、「紙と鉛筆でできる学問」に対して面白い解釈が与えられていたのが記憶に残りました。

私は、「紙と鉛筆でできる学問」というと、コストがかからず頭(アイディア)勝負、ただし成功すれば世の中をひっくり返すような大発見、のようなイメージを持っています。ところがこの本では、「そもそも紙というのは昔は非常に高価なものであって、それをふんだんに使用する学問(この場合は数学を指しています)というのはとても贅沢なものだったのだ」と、コストは高いのだと指摘しています。

想定している時代が異なるので、私のイメージと単純に比較することはもちろんできません。今は、紙というのは容易に手に入るわけで、紙と鉛筆というのはほとんどコストがかからないと同義です。がしかし大昔は手に入れること自体がそもそも非常に難しかったとすると、現代では非常に高価な実験装置に該当するものだったのかもしれません。

記号を使って考えるのは、地面に石で書き付ければ簡単にできます。紙と鉛筆は思考過程を記録しておくためのツールで、昔はこれが非常に高価だった。ということは長期間にわたって思考を展開することが高価だったと言えるでしょう。現代では紙と鉛筆のコストはほぼゼロとなり、コンピュータの使用コストも劇的に下がりました。現在の科学研究におけるコストの議論は高価な測定装置であったり観測を行うための人件費だったりします。紙が高価だった時代と比べると、文明は明らかに進歩しているのです。


科学者には世界がこう見える

科学者には世界がこう見える

  • 作者: 佐藤文隆
  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 2014/11/20
  • メディア: 単行本



nice!(0) 
共通テーマ:

数覚その3 [自然科学]

あることで世間に認められる(ざっくりと言えばそれでお金を稼げるようになるという意味)には、どの程度の時間が必要かについて。

米長邦雄『人間における勝負の研究』、祥伝社によると、青春時代に集中した5,000-6,000時間。ちなみに米長氏は棋士(プロの将棋指しです)

佐藤亮子『受験は母親が9割』、朝日新聞出版によると、10,000時間。この本には司法試験は10,000時間勉強したら通るという記述があります。

その人が置かれている環境、すなわち年齢、立場(学生か、社会人か)、経済条件(塾やセミナーなどに通える金銭的余裕があるか)にも左右されますが、若くて集中可能な環境で5,000時間程度、そうでなければ倍の10,000時間程度といったところでしょうか。もちろんその「あること」に対する正しいモチベーションが保ち続けられることが条件です。
理系の大学生で、1年生から4年生まできちんと真面目に勉強するとして、専門科目に絞ったとします。下記のような試算で7,200時間となりました。

大学4年生:卒業研究に没頭、1日10時間 x 300日 = 3,000時間
大学3年生:専門科目を集中して取得、1日8時間 x 300日 = 2,400時間
大学2年生:専門科目の基礎を取得、1日4時間 x 300日 = 1,200時間
大学1年生:一部の専門科目を取得、1日2時間 x 300日 = 600時間

でも最近は最低でも修士課程まで終えないと専門職の扉をたたけません。修士課程では更に研究に没頭する必要があるので、1日12時間 x 300日 x 2年 = 7,200時間とします。これを学部時代にプラスすると合計して14,000時間超をかけることになります。あくまで理系の技術職で企業への就職を念頭に置いた試算ですが、結構大きな数字になってしまいました。言い古されたことですが、やはり好きなことでないとここまでは続かないし、続かなければモノにならないので、これだけ投資するかはきちんと考えた方がよいと思います。

nice!(1) 
共通テーマ:

『生命-永遠を志向するもの』、丸山圭藏著、共立出版(1979) [自然科学]

36年前に出版された、大学1,2年生向けの生命科学入門書。私が大学2年生のとき、植物学の先生から、「ちょっと癖があるけど、面白いから読んでみたら」と紹介されたのでした。しかしその当時で既に入手は難しく、ずっと心に引っかかっていてようやく古本屋で入手したのが1998年、そしてめでたく先日2015年の10月に読了!

特に分厚いわけでもなく、書かれている内容が非常に何回というわけでもないですが(もちろん日本語で書かれています)、植物学の先生が「癖があるけど」といった理由はなんとなくわかります。ちなみにこの植物学の先生もかなり癖のある人でした。

著者の丸山先生は植物学科を卒業されており、細胞生物学を専攻したと紹介されています。つまり、理学の人ということです。内容としては、細胞から人間の将来までを網羅的に紹介し、その所々に古今東西の哲学者や詩人の科白が引用がちりばめられています。もちろん書かれている内容は実験により証明された、その当時で妥当とみなされる科学的な真実に基づいていますが、「生命」とは何なのか、トータルに捉えようとした姿勢が強く伝わってきます。人間の生物学(第7章)は最後に配置されており、人間は生物の(ほんの)一部に過ぎないという立場からの記述になっています。医学系の人には違和感があるかもしれません。また遺伝子工学や細胞工学などの応用的な話はほとんど含まれていません。

非常に古い本ですし、知識を取得するという意味で読む価値はほとんどありません。でも生命をどのように捉えようとしたのか、その姿勢を読み取るのであれば面白いと思います。この本が書かれた時代では入門書だったのでしょうが、今手に取るのであれば生物学をきちんと勉強した、大学4年生以上でないと意味が無いかもしれません。

でも、私はこの本を神田の明倫館で見つけたのですが、AMAZONにちゃんと入っているのですね。世の中便利になったもんだ(笑)



生命―永遠を志向するもの

生命―永遠を志向するもの

  • 作者: 丸山圭蔵
  • 出版社/メーカー: 共立出版
  • 発売日: 1979/02
  • メディア: 単行本



nice!(0) 
共通テーマ:

数覚その2 [自然科学]

数覚についての話を続けます。

私は(数式なしの)宇宙論や量子力学が好きです。最近はこの分野を研究している研究者が書いた啓蒙書がたくさん出ていますが、数式が入ったもの、数式は入っていないが科学的な厳密さをなるべく保とうとしたもの、それ以外とだいたい3つに分かれます。一番最後は、数式が無く身近なイメージで説明しようとするものです。

この、3つのタイプの啓蒙書(ここで言う啓蒙書とは、専門課程に学ぶ学生や研究者を対象に書かれたものではない、という意味)は同じ内容を扱っていても、アプローチが異なります。

例えば、ブラックホール。数式が入った啓蒙書ではアインシュタインの一般相対論の数学的な解に現れるといった説明になって、特異点では物理法則が破綻すると述べられます。数式なしの啓蒙書ではこういったことが言葉で説明されるわけですが、ブラックホールが実在するのであれば特異点も実在するわけですし、そこで何が起きているのかを言葉で説明するのは至難の業です。

また、宇宙が膨張しているという話があります。数式なしの啓蒙書では宇宙を風船に例え、風船に息を吹き込んで膨らませるのを宇宙の膨張の例えとしていますが、それならば風船が存在する空間に相当するものは何なのかといった疑問が湧いてきます。それは我々が知っている物理学では調べられないと言われても、腹に落ちるような理解は難しいでしょう。事実、風船の例えは混乱を招くので望ましくないと批判する科学者もいます。

私は、数式ありの宇宙論や量子力学を楽しむための感覚を持っていませんが、これらを直感的に理解するのはおそらく無理。啓蒙書をいくら読んでもある一線より先へは行けないことがわかったので(あたりまえですが)、最近ではこの分野の数式無し啓蒙書を読むのは止めています。これらを正確に理解するには数式ありの本を理解しなければならないのでしょうが、そのために必要なコストはかなり膨大なように思えるので、結局のところある一線を越えられないのです。

nice!(0) 
共通テーマ:

数覚 [自然科学]

小平邦彦という数学者が書いた、『怠け数学者の記』というエッセイがある。米国留学時代の覚書や日々書き溜めた雑文(何らかの雑誌に掲載されたもの)の寄せ集めなのだが、この中に「数覚」という面白い記述がある。小平氏によれば、数学は高度に感覚的な学問であって、数学における発見とは自然のなかに埋め込まれた数学を彫っていくようなものだという。そのために必要な感覚が「数覚」であって、この感覚が無いと数学の理解はまず不可能だという。

この、感覚による理解というのは、少なくとも自然科学に広く普遍的な事象であって、遺伝子や酵素といった生命科学の理解もやはりある種の感覚が必要だ。面白いのは、小平氏は数学でも専門が違うと理解できないと言っていて、それは分野が違うと必要とされる感覚が異なるからだという。酵素や蛋白質は理解できても遺伝子が理解できないことあるが、それも全く同じことが起きていると思われる。教科書を見れば一目瞭然だが、生化学とバイオインフォマティックスはかなり異なる。

医学というのは人間の生物学であり、病気を治すための学問体系であるが、医学部みっちりとトレーニングを積むことでヒトという生物の正常、異常についての感覚が発達し、これは医学部でしか身につけることができないといったことを読んだことがあるが、これも同じことである。

それでは、だいたいどのくらい時間をかければこの「感覚」が身につくかという話は、また別の機会に。


怠け数学者の記

怠け数学者の記

  • 作者: 小平 邦彦
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1997/09
  • メディア: 単行本



nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

『分子からみた生物進化』、宮田隆著、講談社ブルーバックス(2014) [自然科学]

☆☆☆☆★

分子進化の入門書で、結構詳しく書かれている。生物学の講義を履修している大学生にお勧め。

分子進化のアプローチ自体はかなり昔からあるが、DNAという生体高分子のダイナミックに振る舞いに感動を新たにした。生物進化という一見複雑な現象が、このDNAの化学的な振る舞いできちんと説明できてしまうということに、分子進化の醍醐味がある。

また、生物が生きているという機構がどのように進化してきたのか、細胞内情報伝達系の進化はそれ自体が面白いだけでなく、医薬品開発などへの応用可能性を秘めている。一つの情報伝達系を使い回すのであれば、そこに作用する医薬品には様々な副作用を有すると予想できる。人間にとって不都合な反応だけを特異的にたたくというのは、本来とても難しいものなのだろう。


分子からみた生物進化 DNAが明かす生物の歴史 (ブルーバックス)

分子からみた生物進化 DNAが明かす生物の歴史 (ブルーバックス)

  • 作者: 宮田 隆
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2014/01/21
  • メディア: 新書



nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

宇宙が始まる前には何があったのか?、ローレンス・クラウス著、青木訳、文藝春秋社(2014) [自然科学]

☆☆☆☆★

宇宙論の啓蒙書で、最新の理論まで盛り込んで解説してあるので面白い。時折読み返して楽しむことができる、良質の本。どうも、宇宙論というのは直感的にわかりにくいので、興味を持ったらこのような啓蒙書を続けて何冊か読むと、なんとなくイメージが掴める。

仮想粒子が実在すると仮定して水素原子の量子力学を考えると10億分の1の精度でその振る舞いを記述できるとは驚きだ。

それにしても、東京郊外のさほど大きくない書店でこの本が平積みされていたのには驚きである。それなりに売れると見込んで入荷したのであろうか。ここは学生町ではないので学生さんが買うのを当てにしたわけではなく、購入者としては地元住民を想定したのであろうが。世間の知的興味レベルを考える上で、興味深い現象である。


宇宙が始まる前には何があったのか?

宇宙が始まる前には何があったのか?

  • 作者: ローレンス クラウス
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2013/11/29
  • メディア: 単行本



nice!(1)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:
前の10件 | - 自然科学 ブログトップ

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。