SSブログ

ダニエル・アクスト著『なぜ意志の力はあてにならないのか-自己コントロールの文化史』、NTT出版(2011) [自然科学]

本屋でたまたま見つけて購入。面白かったので一気に読んでしまいました。
誘惑に流されて困っている、もっと感情に動かされないようになりたいといった具体的なリクエストのための対処本であはりませんが、自己コントロールの歴史を知るにはよくまとまっていて良い本だと思いました。

ここで言う「自己コントロール」とは、情動や感情を自制することを指します。一時の感情に身を任せてしまい、後で取り返しのつかない事態を引き起こさないために我々には何ができるのか、筆者はこの古くて新しいテーマをギリシア神話、文学小説、心理学や最新の脳科学の知識までを総動員して概観し、現時点で取り得る最善の方法を示してゆきます。

マシュマロテストというのはご存じでしょうか。4歳くらいの子供にマシュマロをあげるのですが(外国だからマシュマロですが日本だったらチョコレートでしょうかね?)、「今すぐに欲しいのであればマシュマロは1つ、でもしばらく我慢して後でもよいのだったらマシュマロを2つあげる」と言って子供に選ばせるのですが、しばらく我慢してマシュマロを2つ取った子供の方が社会的適応性や学業成績が優れているとか。他にも様々な心理学的な実験から、自制心が強い=楽しみを将来に先送りできる、人間はそうでない人間に比べて色々な意味で優秀とされていることが明らかだそうです。この観察事実は今更言うまでもなく、学校の先生はよくよくご存じでしょうが、それをきちんとしたデータで示したことは意味があるんでしょうね。

自制心が先天的なものか後天的なものかという疑問が出てきますが、最近の研究では遺伝的な要素はかなり強いらしいということになっているようですね。ここら辺の議論は微妙な問題を含むために慎重な解釈が必要ですが、脳は神経ネットワークの塊でその神経細胞のデザインは遺伝子で規定されていることを考えると、遺伝的要因はかなり強いというのは当たり前でしょうね。

しかし遺伝子で規定されるのは、あくまで「素因」であって、トレーニングも何もせずに自動的に望ましい自制心が発生することはありません。環境や教育は極めて重要なのは言うまでもありません。現代社会は生物の進化に比べてものすごく早く発達し、インターネットやテレビゲームなどいくらでも時間をつぶせる誘惑に満ちあふれています。これは自制心の育成にとって望ましい環境であるとは言い難いため、我々は誘惑との戦いに明け暮れることになる、と筆者は指摘します。

様々な実例、実験室での実験事実から、人間は自分が考えているよりもずっと意志は弱く、誘惑に流され、自制心はあてにできず、新しい刺激や魅力に逆らい難い存在だというのが、これでもかこれでもかと説明されます。ついでに問題の先送りや依存性に対しても、(遺伝的な素因の差はあれ)人間は弱いというのが実によくわかります。著者は意志ややる気という精神論的な話は全く信用しておらず、ひたすら淡々と実例を並べていきますが、この本で紹介されている自己コントロールの課題はおそらく大部分の人が程度の差こそあれ経験したことのある問題ばかりでしょう。そしてそれらに対処するための(ある程度)有効な方法も示唆されていますが、やっぱりそうだよなぁとうなずくものばかり。世の中は楽をして棚からぼたもちが落ちてくることはまず確実にない、というのがよくわかりますね。




なぜ意志の力はあてにならないのか―自己コントロールの文化史

なぜ意志の力はあてにならないのか―自己コントロールの文化史

  • 作者: ダニエル・アクスト
  • 出版社/メーカー: エヌティティ出版
  • 発売日: 2011/08/09
  • メディア: 単行本



nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。