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佐藤文隆『科学者には世界がこう見える』、青土社(2014) [自然科学]

理論物理学者が書いたエッセイです。理論物理学は数学を道具として世界を見ていくので、少し前に載せた「数覚」をお持ちの方たちだろうと思われます。大昔になりますが、ロゲルギストK2氏という物理学者の集団が書いた、『物理の散歩道』というエッセイ集を面白く読んだ記憶があるので、この本もその延長線上にある感覚で読みました。

自分が期待したような、「数覚」を駆使した世界観が展開されていたわけではなかったので、そのような観点からは空振りに近かったのが正直な感想です。ですが、「紙と鉛筆でできる学問」に対して面白い解釈が与えられていたのが記憶に残りました。

私は、「紙と鉛筆でできる学問」というと、コストがかからず頭(アイディア)勝負、ただし成功すれば世の中をひっくり返すような大発見、のようなイメージを持っています。ところがこの本では、「そもそも紙というのは昔は非常に高価なものであって、それをふんだんに使用する学問(この場合は数学を指しています)というのはとても贅沢なものだったのだ」と、コストは高いのだと指摘しています。

想定している時代が異なるので、私のイメージと単純に比較することはもちろんできません。今は、紙というのは容易に手に入るわけで、紙と鉛筆というのはほとんどコストがかからないと同義です。がしかし大昔は手に入れること自体がそもそも非常に難しかったとすると、現代では非常に高価な実験装置に該当するものだったのかもしれません。

記号を使って考えるのは、地面に石で書き付ければ簡単にできます。紙と鉛筆は思考過程を記録しておくためのツールで、昔はこれが非常に高価だった。ということは長期間にわたって思考を展開することが高価だったと言えるでしょう。現代では紙と鉛筆のコストはほぼゼロとなり、コンピュータの使用コストも劇的に下がりました。現在の科学研究におけるコストの議論は高価な測定装置であったり観測を行うための人件費だったりします。紙が高価だった時代と比べると、文明は明らかに進歩しているのです。


科学者には世界がこう見える

科学者には世界がこう見える

  • 作者: 佐藤文隆
  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 2014/11/20
  • メディア: 単行本



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