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『生命-永遠を志向するもの』、丸山圭藏著、共立出版(1979) [自然科学]

36年前に出版された、大学1,2年生向けの生命科学入門書。私が大学2年生のとき、植物学の先生から、「ちょっと癖があるけど、面白いから読んでみたら」と紹介されたのでした。しかしその当時で既に入手は難しく、ずっと心に引っかかっていてようやく古本屋で入手したのが1998年、そしてめでたく先日2015年の10月に読了!

特に分厚いわけでもなく、書かれている内容が非常に何回というわけでもないですが(もちろん日本語で書かれています)、植物学の先生が「癖があるけど」といった理由はなんとなくわかります。ちなみにこの植物学の先生もかなり癖のある人でした。

著者の丸山先生は植物学科を卒業されており、細胞生物学を専攻したと紹介されています。つまり、理学の人ということです。内容としては、細胞から人間の将来までを網羅的に紹介し、その所々に古今東西の哲学者や詩人の科白が引用がちりばめられています。もちろん書かれている内容は実験により証明された、その当時で妥当とみなされる科学的な真実に基づいていますが、「生命」とは何なのか、トータルに捉えようとした姿勢が強く伝わってきます。人間の生物学(第7章)は最後に配置されており、人間は生物の(ほんの)一部に過ぎないという立場からの記述になっています。医学系の人には違和感があるかもしれません。また遺伝子工学や細胞工学などの応用的な話はほとんど含まれていません。

非常に古い本ですし、知識を取得するという意味で読む価値はほとんどありません。でも生命をどのように捉えようとしたのか、その姿勢を読み取るのであれば面白いと思います。この本が書かれた時代では入門書だったのでしょうが、今手に取るのであれば生物学をきちんと勉強した、大学4年生以上でないと意味が無いかもしれません。

でも、私はこの本を神田の明倫館で見つけたのですが、AMAZONにちゃんと入っているのですね。世の中便利になったもんだ(笑)



生命―永遠を志向するもの

生命―永遠を志向するもの

  • 作者: 丸山圭蔵
  • 出版社/メーカー: 共立出版
  • 発売日: 1979/02
  • メディア: 単行本



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数覚その2 [自然科学]

数覚についての話を続けます。

私は(数式なしの)宇宙論や量子力学が好きです。最近はこの分野を研究している研究者が書いた啓蒙書がたくさん出ていますが、数式が入ったもの、数式は入っていないが科学的な厳密さをなるべく保とうとしたもの、それ以外とだいたい3つに分かれます。一番最後は、数式が無く身近なイメージで説明しようとするものです。

この、3つのタイプの啓蒙書(ここで言う啓蒙書とは、専門課程に学ぶ学生や研究者を対象に書かれたものではない、という意味)は同じ内容を扱っていても、アプローチが異なります。

例えば、ブラックホール。数式が入った啓蒙書ではアインシュタインの一般相対論の数学的な解に現れるといった説明になって、特異点では物理法則が破綻すると述べられます。数式なしの啓蒙書ではこういったことが言葉で説明されるわけですが、ブラックホールが実在するのであれば特異点も実在するわけですし、そこで何が起きているのかを言葉で説明するのは至難の業です。

また、宇宙が膨張しているという話があります。数式なしの啓蒙書では宇宙を風船に例え、風船に息を吹き込んで膨らませるのを宇宙の膨張の例えとしていますが、それならば風船が存在する空間に相当するものは何なのかといった疑問が湧いてきます。それは我々が知っている物理学では調べられないと言われても、腹に落ちるような理解は難しいでしょう。事実、風船の例えは混乱を招くので望ましくないと批判する科学者もいます。

私は、数式ありの宇宙論や量子力学を楽しむための感覚を持っていませんが、これらを直感的に理解するのはおそらく無理。啓蒙書をいくら読んでもある一線より先へは行けないことがわかったので(あたりまえですが)、最近ではこの分野の数式無し啓蒙書を読むのは止めています。これらを正確に理解するには数式ありの本を理解しなければならないのでしょうが、そのために必要なコストはかなり膨大なように思えるので、結局のところある一線を越えられないのです。

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人身事故の時の車掌さんの対応 [日々のこと]

昨日、中央線(東京都を東西に走る幹線)に乗っていたら、人身事故に遭遇しました。事故が発生したのは高円寺駅で、乗っていた電車は中央特快だったのでこの駅は通過するはずだったのが、ホームの中間付近で人に接触したとかで緊急停止。ちょっと触れたという程度では済まなかったようで、結局1時間近く遅れました。

緊急停車した電車はホームの途中で立ち往生し、後ろの車両はホームにかからずにドアを開けられませんでした。負傷者の救出作業は難航し、事故発生から20分くらい経って、ホームにかかっている車両のドアのみを開け、乗客を外に出すとのアナウンスがありました。作業のためいったん電車の電源を落とすとのことでエアコンも止まり、車内の温度は上昇、結構人が乗っていて混雑しており、お年寄りや子どもも乗っていたので結構大変だったと思います。(私が乗っていたのは最後部の車両です)

後からわかったことですが、この電車は10両で4両と6両をつなげた編成になっており、途中に運転台があったのでそこから先の車両へ移動できないのです。つまり、後ろの車両に乗っていた乗客は、電車が完全にホームに入るまでは外に出ることはできなかったのです。

車掌さんと乗客が交わしていた会話を漏れ聞くところによると、電車の電源が落ちてしまうと車内アナウンスも不可となり、さらに外との連絡も取れなくなってしまうとのことでした。事実、状況を知らせに駅員が徒歩で車掌さんのところに連絡に来ていました。

車掌さんは、当然この電車の編成のことは知っていた筈です。しかし電源が落ちる前にそのようなことをアナウンスで知らせることはありませんでした。乗客にちゃんと状況知らせろよ、という見方もできますが、しかし。。

全部正直に言ってしまうと、直ぐに電車から降ろせというお客さんが出てくる可能性が高いでしょうし、小さな子どもを連れたお母さんは不安に思うでしょう。しかしながら、乗客を線路に降ろすとなると誘導のための係員が必要ですし、平行して走っている中央緩行線も止めなければなりません。この電車の直ぐ後にも電車が駅間で立ち往生しており、そちらの乗客も降ろすとするとやはり誘導が必要です。高円寺駅にそんなにたくさんの駅員がいるとは思えませんし、応援を頼んで準備するにしてもそれなりに時間がかかるでしょう。線路を歩かせる際の安全性上の懸念もあります。だったら移動できない乗客は車内に出来る限り留まってもらい、具合が悪くなった人が出たらその都度対応する方がベターという判断は充分にアリです。

乗客が降り始めているはずなのに、30分以上経っても電車から降りられないのは何故??ときっとみんな思っていたと思いますが、騒いだり具合が悪くなった人は(すくなくとも私が乗っていた車両には)いませんでした。

まとめると、

1.人身事故で電車が止まり、車内から出るには線路に降りることが必要だった。
2.車掌さんはそのことを(たぶん)敢えて乗客にアナウンスしなかった。
(もし知らせたら、直ぐに下ろせという乗客が出てくる可能性があった)
3.結局1時間近く経って電車は動いたが、車内トラブルは特に発生しなかった。
4.もし乗客を線路に降ろしていたら、莫大な手間と安全上の懸念に対応する必要があった。リスクベネフィットの観点から、降りられない乗客は敢えて車内に留まらせる判断をしたものと思われる。

それではどれくらい経過したら乗客を線路に降ろして脱出させるのか、今回はそこまでわかりませんでしたけど、○時間経過したらか、あるいは乗客○○人以上が問い合わせてきたらとかで決まっているのかもしれません。


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数覚 [自然科学]

小平邦彦という数学者が書いた、『怠け数学者の記』というエッセイがある。米国留学時代の覚書や日々書き溜めた雑文(何らかの雑誌に掲載されたもの)の寄せ集めなのだが、この中に「数覚」という面白い記述がある。小平氏によれば、数学は高度に感覚的な学問であって、数学における発見とは自然のなかに埋め込まれた数学を彫っていくようなものだという。そのために必要な感覚が「数覚」であって、この感覚が無いと数学の理解はまず不可能だという。

この、感覚による理解というのは、少なくとも自然科学に広く普遍的な事象であって、遺伝子や酵素といった生命科学の理解もやはりある種の感覚が必要だ。面白いのは、小平氏は数学でも専門が違うと理解できないと言っていて、それは分野が違うと必要とされる感覚が異なるからだという。酵素や蛋白質は理解できても遺伝子が理解できないことあるが、それも全く同じことが起きていると思われる。教科書を見れば一目瞭然だが、生化学とバイオインフォマティックスはかなり異なる。

医学というのは人間の生物学であり、病気を治すための学問体系であるが、医学部みっちりとトレーニングを積むことでヒトという生物の正常、異常についての感覚が発達し、これは医学部でしか身につけることができないといったことを読んだことがあるが、これも同じことである。

それでは、だいたいどのくらい時間をかければこの「感覚」が身につくかという話は、また別の機会に。


怠け数学者の記

怠け数学者の記

  • 作者: 小平 邦彦
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1997/09
  • メディア: 単行本



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